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2005年9月25日

Sの残り香

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Sはもちろん居なかった。

何事もなかったかのような、殺風景な部屋で私は息を殺した。
確かに何事もないのだな。
Sはここに、何事も置いていかなかった。
ゴミ箱にある、性交の跡形のみを除いては。

テーブルの上には、厚手の封筒が置いてあった。
結婚式の招待状だった。
手にとって、送り主を見ると。。。
「リョウちゃんだ・・・。」
リョウちゃんはひとつ年上のSの従姉。
高校時代の先輩でもあった。
そして、リョウちゃんはSが好きだった。
そんな思いを知っていて、Sはやはり冷たく笑いながら、
私の肩をとったこともあった。

リョウちゃんは泣きながら走り去った。
私はその涙を、自分と重ねてよく泣いた。
そのリョウちゃんの走りぬけた先の午後には、幸せがあったのか。
私はまだ、早朝を走っている様。
走りぬけた午後には、さんさんと輝く太陽が現れるのだろうか?

そんな思いを抱えながら、封の開いてる招待状を見る。
「ハワイで結婚式か・・・。」
中には、まるで現実的な招待文が織り込まれたカードが入っていた。
はらりと薄っぺらい紙が床に落ちた。

「10月2日午前の便で発ちます。その前に会いたい。」

今日は10月1日。
明日。
もしかしたら、Sは空港に現れるかもしれない。
私は妙な予感がしていた。
未だ信じられない、私がSの本命説。
もしかしたら、Sはリョウちゃんをさらう気かも。
まさかね。

わたしはひとつしかない、一人掛けのソファに身を沈めた。
少し躊躇しながら。そして、Sのあるはずのない体温を探すため深く。
ゆっくりと沈んでいった。
そして、目にしたのだ。
ステンレスのコップに写る三日月を。
それはコップの曲線により歪み、細く円を描いた満月。
Sそのもの。
Sの姿は三日月だけど、隠された内面は満月だった。
「見つけた。」
小さくつぶやいた。

リョウちゃんが泣いていた午後を思い浮かべていた。
明日、空港に行ってみよう。
Sを探す気はない。
ただ、Sの残り香を求めていた。
どこかにあるはずの真実の香りを。

つづく。

投稿者 さゆりん : 02:26 | コメント (7) | トラックバック

2005年9月19日

Sの扉

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昨夜の電話。
本当だろうか・・・?
Sの失踪。

いつでも自分勝手なS。
自由奔放で、他人の怒りを買いそれでもその怒りさえも「クスリ」と笑ったS。
だけど、怒りはかっても迷惑をかけたりする男ではなかった。
6年も付き合ってきた私こそが、いつもの浮気相手。
彼にとっての本命は、いつでも新しい女でわたしは「いつもの浮気相手」
新しい本命からの電話。

「あなたがSの女でしょう?後始末はあなたがしてよ。」

じわりと闇が迫るような三日月の夜に、重い足取りでSのマンションを目指す。
重いはずの足取りは、何故か小走り。
狭いエントランスが見える頃、私の足は出来る限りの速度で前進していた。

最後に訪れたのは、2ヶ月前。
溜息をつきながら背にした、小さなエレベーター。
行きも帰りも一人で乗るエレベーターで、今初めて私の心は躍っていた。
何に?
いったい何に、これほど胸を躍らせているのか。
自分の狂気じみた鼓動に、不安と焦りすら感じながら。

「鍵持ってる?」
いつかのあの子だ。
Sに冷たい笑いで追い返された、あの夜に私を笑った彼女。
「もうすぐ管理人の人来るから。よかった、あなた来てくれて。来ないかと思ってた。」
あの時と同じ、せせら笑い。
「じゃあ。」
彼女は寄りかかった扉から背中を離した。
「ちょっと待って、どうして私の電話・・・・。」
知るはずのない携帯に、昨夜電話してきたのは彼女だった。
「ああ、これ。これも渡しとくね、あたしが持ってても仕方ないから。」
彼女は小さなバックから、Sの携帯を取り出した。
「これさあ、Sが落としたんだよね。あたしの部屋で、で壊れちゃったの。」
思い出し笑いを浮かべて彼女は続けた。
「どこにもかからなくて、こんなのいらねえ!って。おかしいよね。」
せせら笑いじゃない彼女の笑い方は、本当に少女のような可愛さだった。

私は、管理人を待たずに部屋の扉を開けた。
「本当の彼女は、あなただったよね?だって、鍵持ってるのあなただけだったよ。」
彼女の言葉に心がときめいていた。
Sの居ない部屋の扉に手をかけながらも。

                                 つづく。。。

投稿者 さゆりん : 03:54 | コメント (4) | トラックバック